『尾木ママ流自然教育論』から考える子どもを自然に連れていくことの意味

 

今回は「尾木ママ流自然教育論」という本をご紹介します。尾木ママこと、「尾木直樹」さんは法政大学名誉教授であり、教育に関するプロフェッショナルとして、様々なメディアやSNSなどでご活躍されています。分かりやすい説明とユニークなキャラクターで、未来を担う子どもたちの教育について熱く優しく説いてくださっています。

 

尾木ママさんご本人が滋賀県の豊かな農村部で育ち、気象予報士である父から自然の面白さについて日常的に学んでいたという背景をもちます。

 

また、ご自身の子どもたちにも自然に触れる機会をたくさん設けて、子育てを行なってきたという経験から、子どもたちの育ちにとって自然が与える影響を強く認識されています。

 

加えて、スマートフォンの急激な普及に代表されるIT化社会という時代背景からの子どもたちへの影響も危惧されて、自然に触れる教育の大切さについてこの本で解説しています。

 

ぜひ直接手にとって読んでいただきたい一冊です。著書の内容を要約してご紹介させていただきます

 



① 五感をフルに使ったプリミティブな体験が大切

 

子どもたちの脳はいわば耕される前の畑と尾木ママさんは言っています。そこをどう耕すか、どんな肥料を入れるか、そしてゆくゆくはどんな種を植えるのか。「どう耕すか」、「どんな肥料を入れるか」という段階は、周りの大人にできることがたくさんあります。良い土ができれば、子どもたちが大きくなった時に自分で選んだ種をしっかり育てていくことができます。では、良い土を作るには具体的に幼少期に何を行えば良いのか。尾木ママさんによると行うべきは早期教育ではなく、「五感をフルに使ったプリミティブな体験」です。

 

 

プリミティブとは「原始的」や「根源的」という意味です。つまり、「土や木の感触を味わう」「水の冷たさや温かさを感じる」「動物や昆虫をまじかに観察し、触れ合う」「美しい風景を見る」「自然の織りなす多彩な音を聞く」などの五感を刺激する体験をたくさん行うことが大切だと説いています。五感をフルに使うことが、脳に良質な刺激を与え、土壌を育てるのです。科学的にも、自然に触れ五感を使うことが、脳の前頭連合野の活性化し、ひいては地頭の向上に繋がると尾木ママはさんは言っています。

 

 

これはまさにその通りだと思います。現代の素晴らしい文明の利器を使えば、そこに居なくてもまるで居るかのようなバーチャルリアルな体験ができます。しかし、それは本当の意味で五感を活用しているとは言えないのではないでしょうか。実際に、小学校では生活科や総合の時間で自然に触れるカリキュラムを取り入れています。また、5、6年生の移動教室では、文化に触れることと、自然に触れることを重視して行程を組んでいる学校が多いです。つまり、学校教育の現場でも教育における自然の重要性は認識されています。しかし、履修しなければならない内容も多く、「したいこと」と「できること」の間に齟齬が生じてしまっているように思います。そんな中でも一生懸命に子どもたちのために日々教壇に立つ先生方には頭が下がります。

 

 

 

② 予測困難な自然が相手だからこそ成長が生まれる

 

日々の暮らしの中でも、困難に直面することは当然あります。自分の子ども時代を思い返すと今より遥かに感受性が高く(今では丸太のように鈍くなってしまいました!)、小さなことでも悩んだり、困ったりしていました。子どもたちはとても繊細です。ただ生きているだけで、たくさんの困難に直面しています。私たち大人はその子どもたちの気持ちに寄り添う必要があります。

 

 

しかし、現代生活では、子どもたちの成長にとって必要な困難さえも取り除かれてしまっているのもまた事実です。壁があるから乗り越える力が付く。壁がなければ・・・。

※本ブログの「レジリエンスを鍛えよう」でも「レジリエンス」という切り口で関係する内容に触れているので良ければそちらも読んでみてください。

 

 

尾木ママさんは、予測困難な自然を相手にするからこそ、状況に応じて考え、行動し、協力し、どんな局面でもタフに切り開いていける力をつけられると言っています。「本当の頭の良さ」はそのような困難を乗り越える経験によって育まれるそうです。自然に触れる中で起きる出来事に対応していくことで、「想像力」「段取り力」「計画性」「遂行能力」「リスク判断力」などを身に付けることができる。自然の中で困難に直面しそれを乗り越えていくことが、頑張りと達成感の関係性を体験的に学ぶことであり、「頑張ると達成感があるんだ!」という認識は、日々の学習にも繋がっていくとおっしゃっています。

 

 

また、尾木ママさんは著書の中で『青少年の体験活動等に関する実態調査』から分かる傾向についても分析されています。それによると、自然体験が豊富な子ほど、自己肯定感、道徳観、正義感、共感能力、前向きさ、協調性、計画性などが高いことが明らかになっています。このように自然が子どもの発育にもたらすメリットが大きいことは統計的にも言えることなのです。

 

 

③ 「自然が親子の関わりを深める」

 

保護者にとっても、子どもが自然に関わる機会を作ることには大きな意味があります。自然に触れ、五感を働かす子どもたちを間近に見ることで、もっている能力や興味・関心がどこにあるのかが分かるそうです。「虫などの観察」が好きなのか、「川遊びなどの体験」が好きなのか、「登山などの達成感を得ること」が好きなのか。その子がもっている本質的な素質が自然に触れることで見えてきます。

 

 

僕の話をさせてもらえば、娘は自然に連れ出すと、とにかくドンドン先に行って、グイグイ登っていきます(途中で「ダッコ」になることもありますが)。海に行けばシーガラスを拾うことに夢中になり、延々と拾っています。そんな娘の様子を見ていると(まだまだ小さいので変わっていくとは思いますが)、傾向としては達成感を味わうことが好きなのかなと思えます。

 

 

尾木ママさんは「行く前」にも関わりを深める鍵があると言っています。「次はどこに行こうか」「何をしようか」など話し合う中で、子どもがもつ興味・関心への認識を深めることができるそうです。

他にも、自然に触れるメリットとして「学校の文化圏と価値観から離れたところで生き方について学べる」、「現代生活から生じる偏りを調整できる」などを挙げて、とても分かりやすく解説されています。ぜひ読んでみてくださいネ!


以上、「尾木ママ流自然教育論」のご紹介でした。

 

 

出典『本物の学力・人間力がつく 尾木ママ流自然教育論』(尾木直樹著)